Felisberto - Escritor y músico Uruguayo (Montevideo 1902 – 1964) - Sitio Oficial

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フェリスベルト・エルナンデス(Felisberto Hernández, 1902-1964)

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南米の小国ウルグアイを代表する作家・ピアニスト、フェリスベルト・エルナンデスは、1902年同国の首都モンテビデオに生まれました。幼い頃から手に職をつけるためにピアノを習い、カフェや無声映画、コンサートでのピアノ演奏で生計を立てる一方で作家活動にいそしみ、1925年に初の著書『某』を発表します。しかし一般的にはまず無名の存在と言ってよく、その後もいくつかの著書を発表するものの大きな反響は得られず、もっぱらウルグアイ・アルゼンチン・ブラジルの各地を演奏旅行で飛び回ることで辛うじて生活の糧を得ていました。

 作家フェリスベルトの本格的な出発は、1942年刊行の中編小説『クレメンテ・コリングのころ』からと言えます。幼い頃にピアノと和声学を学んだピアニスト、クレメンテ・コリングなる人物の肖像を追いながらも、気ままに逸脱しては不意に立ち戻ってくる記憶の不思議なメカニズムを記したこの本が、同郷のフランス語作家ジュール・シュペルヴィエルの目に止まり、激賞されます。

なんという悦びでしょう。あなたのご著書を拝読し、その「主題に対する謙虚さ」によって美、さらには偉大さに到達する真の新しい作家に出会った気分です。

 欧州の戦火を避けて生地ウルグアイに滞在していたシュペルヴィエルの尽力により、フェリスベルトはフランス政府より奨学金を得て,1946年から1948年にかけパリに滞在します。さらに当地で知己を得たロジェ・カイヨワの力添えを受け、ブエノスアイレスのスダメリカーナ社より、彼の短篇集『誰もランプをつけていなかった』(1947)が刊行されます。この書は本人のあずかり知らぬところでガルシア=マルケス、コルタサルなど、のちにラテンアメリカ文学「ブーム」を担うことになる若い作家たちに愛読され、ラテンアメリカ文学の新しい地平を切り開いた一冊として今では高い評価を受けています。

 その後も『オルテンシア』「ワニ」(ともに1949)「水に浮かんだ家」(1960)などの優れた作品を発表しましたが、1960年頃から高まってきたその国際的名声をついに知ることなく、また世界を席巻したラテンアメリカ文学のブームに合流することもないまま、1964年に没しました。

「エルナンデス」というスペイン語圏ではありふれた名字よりも、いくぶんかの親しみを込めて「フェリスベルト」とファーストネームで呼ばれることの多いこのウルグアイ人作家の作品は、国境を越えて多くの読者に愛されてきました。特に目立つのは、作家間での偏愛でしょう。上に述べたコルタサル、ガルシア=マルケスを始め、カルロス・フエンテス、フアン・ホセ・サエールといったラテンアメリカの作家たち。あるいはシュペルヴィエルやイタロ・カルヴィーノといったスペイン語圏の外に広がる巨匠たち。近年では、『バートルビーと仲間たち』でおなじみのエンリケ・ビラ=マタスや、『野生の探偵たち』でラテンアメリカ文学を大きく刷新したロベルト・ボラーニョのような、比較的新しい世代の作家からもその名前を挙げられています。

 フェリスベルト・エルナンデスの作品の魅力は、その独特な《まなざし》と《記憶》の力にあります。世界の神秘を絶えず発見する主人公のまなざしによって、動かぬモノたちがまるで生命を帯びているかのように立ち現れるのです。一本のタバコ、ピアノ、風に揺れるヤシの木、鳩に囲まれた彫像といった物言わぬ存在が、なにか捉えがたい秘密を宿しているように思われ、あたかも沈黙そのものが語りかけてくるような予感に捕らわれます。他方その移ろいゆくまなざしは、主人公の様々な幼年時の記憶を呼び起こします。脈絡もなく現れては去ってゆく気ままな思い出は、世界や事物についての《謎》をかき立てずにおきません。そしてこの気ままで軽やかなイメージの連なりが時として、思いもかけない不思議な出来事につながっていくのです。主人公の視線に導かれながらいつしか私たちは、暗闇でランプのように光る眼をもつ映画館の案内係や、バルコニーに恋する娘、なみなみと水の張られた館と出会っていることでしょう。

 アンティミスムともシュルレアリスムとも、はたまた幻想文学とも分類しきれないその特異なスタイルは、様々な議論の的となってきました。カルヴィーノは、彼をこんな風に評しています。

フェリスベルト・エルナンデスは誰にも似ていない作家である。ヨーロッパにもラテンアメリカにも、似たような作家は見当たらない。彼はあらゆる分類や枠組みを拒む《一匹狼》だ。しかしひとたびページをめくれば、そこには紛れもない彼の姿が立ち現れてくるのである。

 現在日本語で読める作品としては、「水に浮かんだ家」(『エバは猫の中』サンリオ文庫、『美しい水死人』福武文庫に所収)があります。妖しくも美しく、軽やかな憂愁に満ちたフェリスベルトの世界を、一度のぞいてみませんか。

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Kazunori HAMADA

 

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